4月入学の留学生で、日本語科目を履修する皆さんへのメッセージ

留学生のみなさんは、これまで日本語をかなりの程度学んだ上で、東京大学に入学していることでしょう。もしかすると、「日本語はもう十分学んできたので、これからはもっと別のことを学びたい」と思っている人、あるいは逆に、「日本語をさらに勉強して、母語話者以上に日本語が上手になりたい」という目標を持っている人もいるかもしれません。

それは、ともにすばらしい意気込みです! しかしこれまでみなさんは、言語として日本語「を」学んできたことと思いますが、大学に入学してからは、様々なことがらを日本語「で」学んでいくことになります。日本語「を」学ぶことと、日本語「で」学ぶことの違いについて、考えたことはありますか?

日本語で表現されたことをそのまま理解できること、自分のアタマのなかにあることを日本語でそのまま発信できることは、学問の一歩ではありますが、それだけでは何も生み出すことはありません。理解した内容やこれから発信しようとする内容に対し、解釈・評価を経て何かを付け加えていくこと、そしてできれば新しい価値を生み出していくこと、それこそが「学問」の目指すことなのです。

そのためには、自分ひとりで考えるだけでなく、「周囲の人々とともに考えること」がとても大切となります。他の人は、自分とは異なる価値観(考え方の基本的方針)を持っています。自分にとって理解しがたい価値観を持つ人と接するのはなかなか辛い体験ですが(大学ではよくあることです)、そのような人とも真剣に向き合い、そこでどう振る舞うのがよいかを考えることは、みなさんの人間としての成長に大きく貢献することでしょう。

日本語「で」学ぶ、とは、そういうことです。そして東京大学教養学部の日本語科目が重視していることは、日本語を使った活動の中で、上で述べたようなこと(解釈・評価、価値創造、異なる価値観との出会いと調整等)を経験してもらう、ということなのです。

こうした考えに基づき、私たちは留学生のみなさんのために、多様な日本語科目を提供しています。例えば以下のような科目です:

【基礎科目】
必修の基礎科目としては「日本語一列①,②(セメスター制)」「日本語二列C,P(ターム制)」が開講されています。いずれも、アカデミックな話題に基づき、日本語を用いた様々な知的活動を行う中で、「現象・問題や他者の意見を的確に理解し、論評する」、「議論を通じて新しい価値を生み出していく」などのことを体験するとともに、日本語の総合的な運用能力を高めていくことを目指します。

【総合科目 L系列(国際コミュニケーション)】
総合科目は選択制・ターム制です。読解・ライティング・ディスカッション・発音等、特定のスキルに焦点を当てた多様な科目を提供していますので、その中から自分にとって興味のあるもの、必要としているものを選択して履修できるようになっています。学期ごとに、開講される科目は異なります。

いずれの科目においても、日本語「で」学ぶ、という基本理念は通底しています。科目の具体的な内容については、UTASのシラバスを参照してください。また科目の選択方法については、前期課程チームで発行している『履修の手引き』を参照してください。

日本語が母語でない、ということは、実はひとつの「強み」だとも言えます。日本語が母語でないからこそ、母語話者には気づきにくいことに気づける、ということもありますし、母語話者に対し「そういうものの見方もあるのか」という気づきをもたらすこともあります。日本語を通じた社会的活動の中で、日本語以上の学びを得ていってもらえることを期待しています。

以上、東京大学教養学部外国語委員会発行『外国語の学習について―外国語選択の手引き―』より、一部加筆して引用